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鈴原の手を取ったまま、強引に店へ連れ込むと支配人役の男が現れる。 俺は内心舌打ちし、片手をかざしてソイツを止めた。 「こっちはいいぜ、ヘルプも要らねぇー」 そう言い捨て、おたついている鈴原を引っ張り空席へ向かう。 「あのねぇ!…ってうわっ、ちょっ…なに…っ」 二人がけのソファーに座るよう促し、俺はその隣へ腰を下ろす。 コレくらいでナニ慌ててんだ、コイツ? 「く、九条くん、ちょっ、ちょっと腕、腕!」 「腕?」 コイツ、背凭れへ回した俺の腕に焦ってるのか? いやまさかな。こんなの普通の事だし… 「腕どけてよ」 まんまかよ! つか順調に嫌がってるけど、なんかムカつく。 「こんな事でギャーギャー喚くな、ホストなんだぜ? こんなの基本だろ」 駄目押しに背凭れに預けていた腕で、そのまま鈴原の肩を抱き寄せる。 「ぎゃあ!!」 「…ぎゃあってオマエ」 ホントにまだ序の口だろうが… そもそも俺はまだ考えてた嫌がらせを何も実行してねーっつの! こんなんでコイツはマジ年上なのかよ? 「注目浴びてるぜ、もう少し大人しくしろよ」 「あうぅ…」 鈴原は真っ赤になりながら手で口元を覆う。 やっと静かになった。 そこへメニューを持った給仕係りが現れ、笑顔で鈴原に声をかえた。 …あーなんかウゼー。 早く散れ、と目配せしたが伝わるわけもない。 だったらとっとと追い払うまでだ。 「フルーツ盛りとナッツ皿とジンジャーエール2つ」 堅苦しい学校行事じゃ酒も出ねぇ…ホストクラブが聞いて呆れるぜ。 「って待って、なに私の分まで勝手にオーダーしてんのよ!」 「一々うるせー女だな、でなにがいんだよ? ここじゃバケツの水は出ねーぞ」 「はぁ? あ、あれは九条くんが…」 「つーか早く頼めよ」 「っ……もう! えっと、じゃあ私はアップルティーで」 「アップルティーねぇ…」 「な、なによ?」 「似合わねぇーな、ククッ」 「うるさいわね、ほっといて!」 俺に直接楯突く奴はそういない。 ましてやそれが女ときた。 男なら若干いても、女は鈴原以外お目にかかった事ないぜ。 マジでムカつくのにコノ軽快なテンポのやりとりはむしろ心地い。 「…あ、あのー」 給仕係りに口を挟まれ、俺は思わず舌打つ。 「ちっ…フルーツ盛り、ナッツ皿、ジンジャーとアップルティーだ」 早く持って来い、つーか邪魔すんな。 「かしこまりました…、少々お待ち下さい」 立ち去る給仕に鈴原は会釈し、次いで俺に向き直る。 「態度悪過ぎ、こんなのでよく客が入るわね…はぁ」 「だからコレはアンタ仕様」 「だからね、私仕様とかはいいってば!」 ふん、鼻で息をつき、俺は再びホスト仕様の笑顔を作る。 肩を抱き寄せているから普段と違って鈴原との距離が近い。 「『祥慶パラダイス、指名ナンバー1ホストのリクだ。ヨロシク先生』」 わざと低めた声で、鈴原の耳元に囁いてやる。 案の定、腕の中の躰はビクリと跳ねた。 「『ふふっ、耳弱いのか、可愛いね』」 「……っ…っ…っ」 いや、つーか声もなく口パクパク動かす奴ってマジでいたんだ。 初めて見たぜ…超傑作! 「ブッ、くくくくっ…アハハハハ」 「…〜〜〜っ、ちょっ、っていか、笑いすぎ!」 真っ赤になりながら耳を押さえて諌められてもな? はっきり言って効果ないぜ。 つか、こいつの反応面白すぎ。 「『ごめんごめん、姫があんまり可愛い反応するものだから』」 「かわっ…っていうか気持ち悪っ! 気味悪いよその喋り方! そんな九条くんは九条くんじゃない!」 「っだろ? だからアンタ仕様で相手してやってたんじゃねーか」 「〜〜〜もう、ほんっと口の減らない!!」 そのままなら無い様子の鈴原に、俺は気をよくしていた。 肩を抱いている手で、柔らかそうな髪を弄る。 指先にクルクルと絡ませて遊ぶと、くすぐったげに身じろいだ。 鈴原は物言いたげにしつつもグッと息をつめ、対抗意識からかクールを装った。 動揺してるのバレバレだけどな。 「…お待たせしました」 静かな攻防戦に気付くわけもなく、給仕係がテーブルに注文の品を並べだず。 コイツが消えりゃもう邪魔は入らない… 給仕係は立ち去りがたげに鈴原へ微笑みかた。 「ごゆっくりおくつろぎ下さい、鈴原先生…なにかあ…」 「おい」 余計な事は言うんじゃねーっつの。 行かないで欲しげな鈴原が給仕係を引き止める前に牽制しとくか。 「行っていいぜ」 「えっ? あ、あぁ…」 とっとと消えろ。 渋々立ち去る給仕係にほくそえむ。 さて、そんじゃ本番。 どうしてやろう? |