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スタスタと迷わず寄ってくる男。 ざわざわ沸き立つ女共の黄色い声もそ知らぬ顔だ。 そんなの日常的だからか気にも止めねーってか? 御堂… ちっ、なんでコイツが? 「鈴原先生」 「えっ、かず…御堂くん、どうしたの?」 鈴原は思わず腰を浮かそうとして、俺の腕に阻まれる。 つーか御堂、俺は完全無視かよ! 「探していたんです」 「はっ、わざわざテメーがかよ? 生徒会業務で忙しいんじゃなかったか?」 御堂は俺の嫌味を完全に無視し、一切俺を見ずに続けた。 「英先生が探してました、急を要するそうですよ」 「英二郎先生が?」 鈴原は首を傾げ「なんだろう?」と小さく呟く。 「ええ、放送で呼び出すか悩んでいたのでその前に行った方がいいんじゃないですか? ご案内しますよ」 「一哉、それなら僕が案内するよ、ちょうど英先生に用事もあるしね」 「松川さん」 ゲッ、松川依織まで現れやがった。 松川は柔らかく微笑みつつ会話に割り込む。 その唐突な登場に驚く間もなく、鈴原の躰がビクッと跳ねた。 「えーずるーい、僕も先生の事迎えに来たのになぁ」 「一宮、何やってるんだお前は…」 「瀬伊…君も先生に用事なのかい?」 「うんん違うけど、なんだか面白そうだったから混ぜてもらおうと思って」 一宮はいつの間にか俺とは逆側、つまり鈴原側の肘掛に腰を下ろしていた。 しかもコイツ… 「ちょ、せ…一宮くん、腕、腕!」 さりげなく鈴原の肩抱いていやがる。 「腕がどーしたの?」 「は、放して…」 一宮は鈴原の腰に回されている俺の腕をチラリと一瞥し、にっこり微笑む。 それはただの笑顔なのに、見てると嫌な汗をかきそうな迫力があった。 「まさか彼の腕は良くて僕の腕は駄目なんて言わないよね?」 「ぅ…」 返答に困っている鈴原をよそに、俺はふと視線を感じ顔を上げる。 そしてビクッと固まった。 松川も俺の腕の位置に注目していた。 表情は穏やかに微笑んでいるのに、ひやりと凍りつきそうな雰囲気を醸し出している。 鈴原は一宮に気を取られていて気付きもしない。 「鈴原! おい鈴原!」 バタバタバタっと表が騒がしくなり、4人目の邪魔者が騒々しく駆け込んで来た。 それによって漸く松川の視線が腕から逸れ、なんとも言えない緊張感から解放される。 なんだっつーんだ、コイツ等は!! 「なんだ羽倉、騒々しい」 「御堂…つか松川さんに、一宮ぁ? オマエ等がどーして…」 店内はラ・プリンス勢ぞろいで沸き立っている。 「ところで麻生はどうしたの? 随分と慌ててたようだけど」 「あ、それがさぁ…」 「ちょ…ストーップ!」 成り行きを見守っていた鈴原が割って入る。 このまま放置していたら状況は更に悪化し、ごちゃごちゃと色々大変そうだと判断したんだろう。 「羽倉くんも私に用事? というか皆なんで私がココにいるって分かったの?」 言い終わると同時に鈴原は暗い顔をする。そしてボソボソと呟いた。 「予定外に入った場所なのに、こうもあっさり探し当てられると複雑なんだけど…というか皆に私ってホストクラブに行きそうな奴だと思われてるって事なの?」 こんな状況の中、妙に冷静なツッコミだった。 騒ぎを収拾する為に割って入ったくせに、途中から完全に話しがそれている。 「ぶっ…くくくっ」 俺は思わず吹き出した。 変わった女だ、マジありえねーよ! この面子を前に舞い上がるでもなく、怯みもしない。 「…いや、だからね九条くん、失礼な所で笑いすぎだから!」 俺がいつもの憎まれ口で返そうとすると、タイミングを計ったように御堂が咳払いをして注目を集める。 「一応ここは自分のクラスですし、立場上各所から情報が入って来るんです。ですから鈴原先生がこちらにいらっしゃる事を知っていても、なんら不思議ではありませんよ」 そこで初めて御堂は俺をチラリと見た。 その視線が妙に癇に障る。 「な、成る程…」 くっそー… 鈴原がココに居る事、誰がチクリやがったんだ… 「そうですね、九条の言うとおり生徒会業務を言い訳にクラス出展に完全不参加というのも気が引けますし、表までエスコートしましょうか?」 時間差で嫌味を返しやがった、なんだこの敗北感。 「えっ…いやいいよ」 断られてやんの、ダセー。 御堂は微かに目を細め、鈴原の腰を抱く俺の腕に視線を落とす。たったそれだけのアクションに、妙に気圧された。 「そうですか? お楽しみ中の邪魔をしてしまうお詫びも兼ねて申し出たんですが…」 「おた…う、うん、気持ちだけで結構で…す」 「では急ぎましょう、さぁ行きますよ」 すいっ優雅に手が差し出される。 エスコートは断られただろうが!! 鈴原は条件反射でその手を取り、シマッタとオーディエンスと化して見守る店内の客を見回す。 「じゃ、行きますか鈴原先生」 そんな事にはお構いなしで、一宮が続いて立ち上がる。 肩を抱かれている鈴原も、促されるまま腰を上げた。 完璧なエスコートを見せつける二人と、さっきからチリチリ感じていた腕の居心地悪さもあって、あっさり連れ去られてしまった。 隣にあった温もりが消え、俺は我に返る。 なに勝手に連れてかせてんだよ、俺は! 苛立ちを覚えつつ出入り口へと視線を向ける。 なんの口出しも出来ないまま、あっさり手放した自分が腹立たしい。 店を出て行く5人を睨むと、鈴原が一人急いで戻って来た。 「…なんだ…よ?」 「別に逃げたわけじゃないんだからね、そこの所、勘違いしないように!」 ビシっと俺へ指を突きつけ勝気に告げる。 「おい鈴原、早くしろよ、そんな奴どーだっていいだろうが!」 生意気な二年の羽倉麻生が呼ぶ声に振り返り「分かってる」と答えると、言うだけ言って満足したのか「じゃあね」と俺に言い残し、今度こそ小走りで立ち去った。 「…なんだそりゃ?」 勝ち負けの勝負でもしているかのように… まるで今日のは引き分けだとでも言いたげな… 「ぶっ、くくっ…やっぱアイツはバカ女だ…」 さっきまで感じていた敗北感は、いつの間にか消えていた。 今日の勝負がドローだって? 誰が見たってお前は負けだろーが! …つーか、俺もお前には勝ってたけどよ… 「完敗だっつの!」 ムカつくが、同じフィールドに立たないと勝負にすらならない。 「いや待て、立つ気なんてねーけどな!」 否定しつつも、どこかで負けを認識していた。 認めたくはない、認めたくない事実にすら目を瞑ってしまいたい。 でも明らかに負けは負け。 お前に勝って奴等に負けた。 だから今日の勝負は無効試合、お前の言うとおり引き分けだ。 「やっぱアイツと関わるとロクな事がねー…」 それは、俺の中に嵐をもたらす想定外の出来事で。 いやーな予感に、俺は激しく顔をしかめた… 【END】 「で一哉くん、英二郎先生はどこなの?」 「バーカ嘘に決まってるだろう、クラスから報告があったから迎えに来たまでだ」 「は?」 「お前はほっとくとロクな事をしないからな…」 「むぅ…」 「君が困って居そうだったからね、僕もよってみたんだ。お節介だったかな?」 「え?」 「邪魔しちゃった、とか?」 「違うよ、違う…ホントに困ってた所だから助かった」 「そ?」 「うん」 「僕はただ君と遊ぼうと思って探してただけだよ」 「あは…はははは…」 「俺は英二郎のヤローがごちゃごちゃウルセー事いいやがるから…」 「うん???」 「ダー、それはどーでもいい、つーか無事ならいいんだ」 「あ、ありがとう…?」 「おう」 とかいう裏設定があったりなかったり…(笑) |